2011年10月7日
社会福祉法人「ふれあい福祉協会」
将来展望を開く検討小委員会

はじめに

 ふれあい福祉協会(以下「ふれあい」)は戦前の「癩予防協会」、その後を継いだ「藤楓協会」の活動を経て、2003年(平成15年)に新設されました。これに先立ち、国の誤った強制隔離政策、らい予防法による患者、入所者等の人権無視、尊厳の冒涜に対し、司法の場では熊本地裁が違憲判決を下し、行政、国会においてはハンセン病問題の早期かつ問題の全面解決に向けた内閣総理大臣談話を発表。さらに、ハンセン病問題に関する検証会議による作業を経て、2008年6月にはハンセン病問題の解決の促進に関する法律(ハンセン病問題基本法)が制定されました。「ふれあい」はこれら歴史的事実を重く受け止め、二度とこうしたことが起こらないよう、リニューアル・オープンした国立ハンセン病資料館(以下「資料館」)の管理・運営改革に全面的に取り組み、患者、回復者、入所者の名誉回復のための事業を展開しました。

 ところが、4年前に資料館の展示内容・方法の問題に端を発し、ハンセン病に対する歴史的認識の不足、並びに万死にも値する配慮に欠けた言動などで混乱を深めました。理事長は責任を取って辞任、新たに理事、評議員,監事を選出し、新理事長も選任され、2009年4月、新生「ふれあい」として再出発しました。しかし、「ふれあい」は2009年の資料館の運営から排除される事態となり、今日に至っております。こうした事態を招いたのは「ふれあい」の体質そのものにかかわっており、ここに深く反省、謝罪するとともに心機一転、再出発の決意を表明するものであります。

ハンセン病の歴史認識と謝罪

 「ふれあい」がどうして重大な責務を遂行できず、混乱を引き起こしたのか。その原因はハンセン病に対する歴史認識、熊本地裁判決で指弾された国の責任を十分に理解、認識せずに資料館の展示をなし、運営してきたことがまず挙げられます。それは筆頭責任者の個人的な資質、歴史認識の欠如といった問題だけではなく、組織全体の責任と言わざるを得ません。回復者、入所者、関係者の皆様に心からお詫び申し上げます。それと同時に、資料館の創設にかかわり、藤楓協会の理念を継承した「ふれあい」としては、歴史を検証し、その反省に立って、癩予防協会と藤楓協会初期の時代に「ハンセン病を恐ろしい伝染病であると意図的に吹聴し、国民各層に無用な恐怖心を煽り、絶対隔離のため無らい県運動を主導し、患家訪問等を展開して強制隔離を促進した」事実と、その結果、患者、家族の皆さんに甚大な苦難と被害を与えたことに対して、改めて謝罪し、差別と偏見のない社会を目指す覚悟であります。

検討小委員会の設置と新たな決意

 「ふれあい」の新体制はこうした反省と謝罪を踏まえ、2011年4月「ふれあい福祉協会の将来展望を開く検討小委員会」(理事、評議員ら9人)を設置、半年間にわたって協議を重ねてきました。まず、神美知宏委員(全療協会長)に意見を求めるとともに、成田稔・資料館館長からは癩予防協会及び藤楓協会の癩(らい)対策への支援活動について意見を伺いました。ハンセン病の歴史認識、反省点、今後の取り組みなどを多角的に徹底討議し、「ふれあい」としての方向性、新しい決意を示しました。以下はその概要であります。

①日本のハンセン病問題の歴史、国家に「負の遺産」として大きな禍根を残した事実などについて真摯に見つめ直し、教訓を今後に生かす。そのためには、熊本地裁判決、検証会議報告を十分に踏まえ、ハンセン病患者、回復者やこの問題に関心を持つ多くの市民と共に、国民一人ひとりに対して人間が持つ「偏見」「差別」の恐ろしさ、そしてらい予防法に基づく「国家犯罪」を後世に伝承する。

②国家による強制隔離の推進に、癩予防協会、藤楓協会がかかわったことは歴史的事実であり、国の補助的・中核的な機関としての役割を担った。「ふれあい」は、これを深く反省して今後の取り組みに生かし、こうしたことが再び起こらないように努める。

③資料館の役割、目的は教育普及活動、展示の充実等で、回復者、入所者、関係者が生き抜いた証を残し、同じ過ちを繰り返さないことを訴え、名誉回復を目指すことにあります。名誉の回復を図るためには、歴史に関する正しい知識の普及啓発と基本法にある設置根拠に具体性を持たせつつ、組織の整備、財源の確保などを図る。

④「ふれあい」は現在、資料館の管理、運営に直接かかわっていないが、発足の経緯、組織の目的、理念から考え、関係省庁、全療協とも協議し、管理・運営に積極的に関与すべきである、と考える。厚労省が2011年2月14日付け健康局長名で「ハンセン病対策事業(資料館運営等委託分)」の一般競争参加資格についてランクの格下げを行ったため、「ふれあい」も公募への参加が可能となった。これにより、2012年度からはハンセン病資料館の管理・運営に復帰できるチャンスを与えられたと受け止め、組織を挙げて取り組むべきだとの結論に達した。

新たな課題―入所者の高齢化と認知症の増大

 全国13園の入所者は高齢化が進み、認知症患者とその予備軍が増える傾向にあります。(~熊本地裁判決から10年~「ハンセン病問題と現在と未来を問うシンポジウム」の神全療協会長発言から)

 全国の入所者数は平成25年4月現在で1979人ですが、2年前の2011年(平成23年)時点では2275人で、平均年齢は82歳。この時点で、寝たきり状態は253人(11.1%)、要食事介助647人(28.4%)、失禁580人(25.5%)、認知症477人(21.0%)となっています。軽症者は613人(26.9%)。中でも深刻なことは認知症予備軍が半数を占める1185人(52.1%)にも達し、高齢化に伴い、認知症とその予備軍が急激に増えている実態が浮彫られました。

 ハンセン病の回復者、入所者はこのまま進むと10年後、20年後には高齢化にともなう諸症状が重症化するなど、入所者の減少は避けられません。入所者サイドからはその時の介護、支援策はどうなっているのか、と心配する声が高まっています。高齢化により疾病対策、看取りなどが新たな問題としてクローズアップされており、「ふれあい」はこれら諸問題の対応にも積極的に取り組んでいきます。

偏見と差別をなくす歴史資料館へ

 「ふれあい」の目的は多様な福祉サービスが、療養所の入所者をはじめとした利用者の意向を尊重して総合的に提供されるよう創意工夫することで利用者が、個人の尊厳を保持しつつ、自立した生活を地域社会で営むことができるように支援することであります(定款の目的の一条)。そのため、利用者の代表4人が理事、評議員に参加し、利用者支援の事業を展開してきました。資料館の管理・運営については、意思の疎通と組織の機能が十分に発揮できなかったことから利用者の皆さんと家族に大変なご迷惑と苦痛を与えましたが、組織として心から反省、謝罪し、新生「ふれあい協会」としての再出発を誓いました。検討小委員会では、成田稔館長らから、資料館の目的(ハンセン病患者・回復者およびその家族ら、亡くなられた方も含めての名誉回復)を実現するため、特に、社会啓発について「ふれあい」の協力を強く要望されました。

 「ふれあい」の役割、使命は基本法を遵守し、正しい知識の普及啓発を進め、患者、回復者、入所者の名誉回復、偏見、差別の解消を推進することにあります。さらに、納骨堂の存続問題をはじめとする慰霊・供養については、遺族がおられない場合は「施主」として永遠に供養し、また入所者が最後の一人になっても、国と連携しながら全力で支える所存であります。遠い将来、全国の療養所が主を失った後も、資料館を偏見と差別をなくすためにハンセン病患者らの生活の軌跡を後世に残す歴史的メッカとして存続させることはもちろん、国の内外に負の歴史についての情報を発信し続ける活動的な記念館として運営して参る所存です。

 最後に、第2次世界大戦でナチスにより強制収容所に送られ、その体験を戦後間もなく「夜と霧」で発表したヴィクトール・E・フランクル(精神科医)が、その中で「(人間はたとえ)どんな困難な状況であっても、生命の最後の一分まで、生命を有意義に形づくる」と述べています。これは国家権力によって否応なしに自由を剥奪されたアウシュヴィッツの犠牲者と、国の強制隔離で絶望感に苛まれたハンセン病の犠牲者が本質的に同根であったことが教示されています。

 私たち新生「ふれあい福祉協会」は癩予防協会と初期の藤楓協会が国の強制隔離政策に深くかかわった歴史的経緯を胆に銘じ、ハンセン病に関する正しい理解の啓発や回復者、その家族の皆さんの名誉回復に全力で取り組む覚悟を新たにしました。何とぞ、今後ともより一層のご理解、ご支援を賜りますようよろしくお願い申し上げます。

以上

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